6. 幾何公差とは?

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幾何公差を考えてみましょう。
前ページでは、複数の部品の公差を考えました。

では、ひとつの部品を考えてみましょう。

寸法公差と幾何公差の関係
寸法公差は大きさを制御する場合に指示し、形の崩れ(反りやうねり、位置ずれ)を制御する場合は幾何公差を指示します。なぜ幾何公差が必要なのかというと寸法や寸法公差ではどうしても伝え切れない形状があるからです。

また、幾何公差を使ううえで理解しておかなければいけない知識があります。
それは「幾何公差に必要な寸法記入の考え方」と「幾何公差に必要な加工知識」、「幾何公差に必要な計測の知識」です。

必要な知識として、旋盤加工・フライス加工、そして計測機器の知識が求められます。
「どうやって加工するべきか」「どうやって計測をするのか」、設計者がそれらをよく知らずに図面に幾何公差を書くことはできません。
設計者は、現場の加工者なみに深い知識は習得出来ませんが、加工者に対しこちらの設計意図を正しく、かつ加工者が作業しやすいように伝えるための必要最低限な加工知識が必要です。
私は学生時代にアルバイトをしていた会社でNCプログラマーが病欠となって、その会社の社長から講習に行かされて、その後プログラミングを任されました。その時にフライスのマシンコントロール技術を教えてもらいました。
本論にもどって、
それに加えて、設計製図を行ううえで、計測の知識も必要となります。特に幾何公差を指示する場合は、検査部門からの問い合わせに対応するためにも、計測機器の種類や使い方など必要最低限の知識が求められます

寸法記入の考え方
製図をするうえで投影図を決める際、その対象物だけを見て投影レイアウト(投影面・投影方向・断面や補助的な投影図の有無など)を判断します。つまりCAD上で描かれている組立図とは切り離して、図面の読みやすさ、すなわち加工のしやすさを考慮して投影図が決まります。
しかし寸法を記入していくに当たり「投影図だけでは何が基準か」「どの穴とどの穴が関連するのか」など、その部品が持つ機能に関する情報が何もありません。従って、寸法を記入する際はCAD上で描かれている組立図に戻り、その部品が持つ機能を把握しなければいけません。

基準となる面や線とは?
JISの一般原則(寸法記入方法)に『寸法は必要に応じて基準とする点、線または面を基にして記入する』と示されています。
さらに部品の寸法(寸法公差)や形状(幾何公差)のばらつきを小さくすることで精度を向上する場合は、寸法公差を追加、さらには幾何公差を追加をします。
寸法記入にはプライオリティ(優先度)があります。機能上重要な部分を優先し、必要に応じて寸法公差や幾何公差を指示します。しかし加工現場からのフィードバックとして、加工に合わせた寸法記入が必要な場合もあります。製品の品質・信頼性を保証するのは設計者の責任ですから、関連部門と協議のうえ、機能性、加工性、計測性のトレードオフ(一方を満足すれば、他方が不満足になること)を考慮して寸法を記入します。

幾何公差の基本概念
JISには、次のように幾何公差の基本概念が定義されています。

1.< 形体に指示した幾何公差は、その中に形体が含まれる公差域を定義する>
幾何公差が示す領域は公差値で示された数値の幅を表し、その領域の中に該当する形体が収まるか収まらないかを判断するものです。

2.< 形体とは、表面、穴、溝、ねじ山、面取り部分または輪郭のような加工物の特定の特性の部分であり、これらの形体は、現実に存在しているもの(例えば、円筒の外側表面)または派生したもの(例えば、軸線または中心平面)である>
公差形体は現実に存在する表面や線など(母線という)と、それらから現実に定義できるもの(中心軸線や中心平面など)の2種類に分かれます。

3.< 公差が指示された公差特性と寸法の指示方法によって、公差域は次の1つになる>

4.< さらに限定した公差が要求される場合、例えば注記を除いて、公差付き形体はこの公差領域内で任意の形状または姿勢でも良い>
公差形体は、上記に示す領域の中にあれば、どのように変形していても問題ありません。

5.< 特に指示した場合を除いて、公差は対象とする形体の全域に適用する>
特別な記号を用いずに表した幾何公差の対象範囲は、矢を当てた面や線が稜線など変化点のある部分までの領域全体を指します。

6.< データムに関連した形体に指示した幾何公差は、データム形体自身の形状偏差を規制しない。データム形体に対して形状公差を指示しても良い>
データム指示した面や線は、特に幾何特性の規制を受けません。一般的に暗黙の了解としてのデータムなので、それなりの幾何特性に仕上げると解釈されますが、幾何特性を指示する方が望ましいとされます。
< データム>とは、「形体の姿勢偏差、位置偏差、振れなどを決めるために設定した理論的に正確な幾何学的基準」と定義します。つまり、加工や寸法測定をする際に「この面または線を基準に加工・測定しなさい」という基準を表します。
< 設計>< 加工>< 計測>の共通の情報が<図面>です。この3者についての作業性および機能を考慮した共通基準として満足できる部分をデータムとして設定することが理想的です。そして、図面の中でデータムは基準を表すための記号として用いられます。

4つの幾何特性<形状公差>・<姿勢公差>・<位置公差>・<振れ公差>
幾何公差
形状公差とは
対象となる形体(平面や線など)が、幾何学的に正しい形状を表す偏差の許容値内にあるかを規定することです。幾何公差の分類の中で、唯一単独形体と呼ばれ、データムを必要としないことが特徴です。
形状公差を簡潔に説明すると、「まっ平ら(たいら)」「まん丸」といった絶対形状や図面に指定された形状とを比較する特性であることです。つまり姿勢公差・位置公差・振れ公差がデータムという相対比較する基準を持つのに対して、形状公差は相対比較するデータムを持たずに絶対形状と比較する特性です。形状公差を指示する場合はデータムは必要ありません。

形状公差には、次の6つの幾何公差があります。
1. 真直度(Straightness)
2. 平面度(Flatness)
3. 真円度(Roundness)
4. 円筒度(Cylindricity)
5. 線の輪郭度(Profile of a line)
6. 面の輪郭度(Profile of a surface)
このように6種類もある形状公差は、「2次元領域」か「3次元領域」の2つのグループに分類できます。

形状公差の分類
“線で評価する”“面で評価する”といわれて、皆さんはどのように想像するでしょうか? “面で評価する”といわれた場合、比較的イメージが付きやすいと思います。
形状公差にかかわらず幾何公差を考えるときは、リアルに見える面以外に、想像力を働かせて切り口として見える切断面や、その切断面の稜線を想像できなければ解釈ができないのです。

真直度
JISによると、「真直度(Straightness)とは、直線形体の幾何学的に正しい直線からの狂いの大きさをいう」と定義されます。真っすぐであって欲しいという形体に対して指示するものです。
特に細長い軸や角柱などでは、加工熱によって反りが発生する可能性が高くなります。機能上、反りが許されない場合に用います。

姿勢公差とは、
対象となる形体がデータムに関連して、平行や直角、任意の角度を持つ幾何学的に正しい姿勢を表す偏差の許容値内にあるかを規定することです。幾何公差の分類の中でデータムを参照することから「関連形体」と呼ばれます。
姿勢公差に分類される幾何特性で、平行度は0度(あるいは180度)を規定し、直角度は90度(あるいは270度)を規定します。それ以外の任意の角度を規定するものが傾斜度です。つまり、姿勢公差は、データムに対する対象形体の角度特性を表すものなのです。

姿勢公差は、次の5つに分類できます。
1.平行度(Parallelism)
2.直角度(Perpendicularity)
3.傾斜度(Angularity)
4.線の輪郭度(Profile of a line)
5.面の輪郭度(Profile of a surface)

<形状公差はその絶対的なカタチの崩れを規制します>

<姿勢公差はデータムに対する角度ずれを規制します>

位置公差とは、
<位置ずれを制御する位置公差です>
位置公差とは、対象となる形体がデータムに関連して、中心点や軸線、中心平面などが、幾何学的に正しい位置に対して偏差の許容値内にあるかを規定するものです。幾何公差の分類の中でデータムを参照することから「関連形体」と呼ばれます。
位置公差に分類される幾何特性で、同軸度はデータム軸と同一線上(つまり同軸)からの位置ずれを規定し、対称度は対称形状の部品におけるデータム平面と同一平面上から位置ずれを規定します。また位置度は基準と設定した面から理論寸法で示された位置のずれを規定します。つまり位置公差は、寸法では表現不可能なゼロゼロの関係となる位置を表現できることが最大の特徴です! また、寸法を2点間の距離で測定するのではなく、測定治具を基準として位置を規定したりします。

位置公差には、次の5つの幾何公差があります。
1. 同軸度(Coaxiality)/同心度(Concentricity)
2. 対称度(Symmetry)
3. 位置度(Position)
4. 線の輪郭度(Profile of a line)
5. 面の輪郭度(Profile of a surface)

振れ公差とは、
対象となる形体がデータムに関連し、回転体の表面を対象として、指定された方向の変位が偏差の許容値内にあるかを規定するものです。
姿勢公差や位置公差と同様に関連形体と呼ばれ、データムを必要とします。
振れ公差のうち、「円周振れ」は、回転させた外表面の任意の位置における部分だけを規制するものです。つまり真円度と同様に、対象部の輪切り状態を想定して、その稜線(りょうせん)のみを評価するものです。
それに対して、「全振れ」は、回転させた外表面全体をトレースして、全体に渡って規制するものです。
振れ公差の特徴として、データムとなる中心軸を中心として部品を回転させたうえで、対象部の表面のみしか指示できないことです。

振れ公差には、次の2つの幾何公差があります。
1. 円周振れ(Circular run-out)
2. 全振れ(Total run-out)

新人諸君も寸法公差と幾何公差の関係がわかってきたと思います。

雑談ですが
もし、うちの会社にはそんな幾何公差なんていらない・・という先輩がいたとしたら、あなたは不運な会社に就職したと考えましょう。
<まっ平らの板なんて、存在しません>  <真っ直ぐの棒も、存在しません>

我々設計者は、ミクロの考え方が必要なのです。ものを見る時に<どのくらいの精度で出来ているのか?>を考えましょう。
そして、たくさんの、ものをみて感じる習慣をつけましょう。

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